おばけ昔話/百目

ある春の日暮れの時のことです。人里離れた山道を一人の商人(あきんど)が心細そうに先を急いでいると、誰か前を行く者がいます。道連れができたと喜んで商人がその男に追いついて声をかけると、振り向いた男は、なんと両目ともかたくふさがった盲でした。商人は、杖も持たずにシャキシャキ歩く盲の男を不思議に思いましたが、話し相手ができた嬉しさに、大して気にも留めずに一緒に歩き出しました。

商人は、旅先で出会った楽しいことや苦労話・商いの反物の流行廃りの話などまぁ次から次に喋り続け、盲のほうは、その度にふんふんとただ返事を返すばかり。それにしても、急な上り坂や石ころの多い下り道をほとんど同じ速さで歩く盲のかんの良さに目を見張るものがありました。商人はその後をやっとついていくといった有様で、ふいに盲が足を止めたときには、これで一服できると喜びました。ところが、盲は足元に腰を屈めるようにして、『小さい春がこんなところにもいる』とつぶやくので、商人が覗くと、草の陰に愛らしいスミレの花が咲いています。驚いた商人が、愛想笑いを浮かべながら、『目が不自由で、しかもこの日暮れに、よくもまぁ見えたものですなぁ』と声をかけると、めくらは、『盲ほどよく見えるといいますからなぁ』と答えて、先を急ぎ始めました。

しばらくすると、日はとっぷりと暮れて、あたりは深い闇に包まれました。商人が慌てて提灯に灯をともすと、盲が灯りを貸してくれと頼みます。なんでもわらじの紐を結び直したいと言うので、商人は盲の足元を照らしたとたん腰を抜かしてしまいました。着物をまくしあげた盲の膝から足元にかけて、よく光る目玉が百もついていたのです。

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