おばけ昔話/旅は道づれ

昔、一人の侍が京へ向かう旅の途中、鈴鹿山の寂しい林の中で、人の話声を耳にして足を止めました。不思議に思いながらあたりを見回しても、誰一人いません。これは鈴鹿の山にいると言われる山賊かもしれないと用心した侍が、林を抜けて一本道をしばらく行くと、再び後から人の話し声が聞こえてきました。振り返ると、旅姿の町人と虚無僧がはるか後方を歩いてくるのが目に入りました。それにしても、二人の話し声がすぐ耳元で聞こえるはずがありません。怪しんで侍がわざと足を遅らせて、次第に近づいてくる二人の様子を盗み見ると、はっと驚きました。片割れの虚無僧の顔が、とても人間とも思えないほどくしゃくしゃに潰れているのです。これは妖怪変化に間違いないと確信した侍は、一太刀のうちに切り捨てるべく足をゆるめ、二人がすぐ後に来たところを見計らっていきなり振り返ると、腰の刀に手をかけました。その時です。虚無僧の姿はかき消え、残された町人が、あまりの恐怖にガタガタ震え出しました。侍は町人をなだめて落ち着かせると、二人が連れ立っていた訳を問いただすことにしました。それによると、この辺に不案内なこの虚無僧を、たまたま宿屋をしている町人が今夜一晩泊めようと言う話になったのだということです。この虚無僧の顔は見ていないらしく、侍が奇妙な顔つきだったと詳しく話して聞かせると、再び腰を抜かしかけました。侍はそんな町人を笑い飛ばし、『たとえ化け物でも、旅は道づれと言うことがある』と言いながら、新しい道づれ同士また歩き始めました。

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